LAMY specs vol.1

ラミーの全く新しい一面を発見

オンライン版ラミー にようこそ! 第1号(印刷版およびデジタル版)では、全く新しい視点からラミーのことを知っていただきたいと思います。この中には、さっと見ただけでは分からない、スマートフォンやタブレットを利用することで発見できる世界が広がっています。

 

アナログとデジタル、リアルとバーチャル――ラミー スペックスにおいて、その境界は柔軟に変化します。その全てを可能にしているのが、本誌のタイトルと同じ名前のAR(拡張現実)アプリです。これを利用することで、動画から驚くべき3Dアニメーションまで、文字や写真だけでは表現しきれないコンテンツにアクセスできます。

ラミー スペックスは、あなたをエキサイティングなラミーの世界へと誘います。タイトルの「specs(スペックス)」という言葉はspecifications(仕様)の省略形で、「一般的に、製品開発においてイノベーションが満たすべき要件を示す」という意味があります。つまり、ラミーを特別でユニークなものにするあらゆる要素をまとめたもの、ということです。例えば、興味をそそるテーマや、ラミーを取り巻く人々やストーリーなどです。

一方、私たちは常に、自分たちの中心を成す価値観に立ち返っています。それは私たちのあらゆる行動を導き、北極星のように揺るぎません。”Design. Made in Germany”はその大きな部分を占めるものですが、それと同様に、このデジタルの時代でも、もしくはそんな時代だからこそ、私たちは手で書くことに対してこだわりを持っています。筆記具ブランドである以上、ラミーは本質的に、現実的かつ触覚的な世界に根差しています。しかしながら、アナログとデジタルは私たちにとって相反するものではなく、むしろコインの裏表のようなものといえます。互いに補い合い、補完するものです。その証拠は、まさに今、あなたの手の中にあります。

   以上のことを心に刻みつつ、ラミー スペックス第1号を読むことで、皆様がインスピレーションを得られるよう願っております。このフォーマットについてのご感想を、ぜひお聞かせください。ご意見をお待ちしております!

 

毎日の暮らしに新しい形を

魅力的でありながら大げさではなく、控えめでありながら退屈ではないものを作ることは、デザイナーにとって常に難題です。ジャスパー・モリソン氏は、ラミー アイオンの筆記具シリーズで完璧な答えを見つけました。

 

ジャスパー・モリソン氏に、彼がデザインを手がけたラミー アイオン シリーズについてお話を伺いました。

 

ジャスパー・モリソン氏は抑制の達人です。派手さや極端な豪華さを用いたいという衝動に駆られるデザイナーがいる一方で、彼の答えはスマートで控えめな印象が特徴です。彼が尊重するものには、特殊な存在になりたくないという明確な意思が感じられます。椅子、スツール、照明、携帯電話、時計、コーヒーテーブル、バス、鍋、グラスなど、デザインの対象が何であったとしても、彼の作品は一貫して、ずっとその場にあったかと思わせるほどシンプルで自然です。その主な要因のひとつに、対象物に最適な素材を選び、全てが完璧といえるまでいかなる細かいディテールにもこだわり続けるという彼の強固な姿勢があります。

 

ジャスパー・モリソン氏は、現在最も注目を集めるプロダクトデザイナーの1人。ラミーのために、自身初となる筆記具シリーズをデザインしました。クレジット:Jasper Morrison Ltd/Elena Mahugo

 

しかしモリソン氏は、独創性への執着と戦い、「ノーマル」としてくくられがちな匿名性にデザインの焦点を置いているだけではありません。彼が行くのはその一歩先であり、それは重要な意味を持ちます。あえて趣向を凝らしすぎないようデザインされながらも強い存在感を放つもの。それをモリソン氏は「スーパーノーマル」と表現します。私たちの五感を目覚めさせる、独特なデザインと品質を持つものです。

 

彼は、単に見栄えを良くすることには全く興味がありません。ユーザーのニーズを確実に把握しながら、奇をてらわず、しかし記憶に残るような新しい要素によって、日常生活を楽しいものにしようと日々取り組んでいます。はっと目を引くようなことはないけれど、必要なときにはそこにあるもの。考え抜かれてデザインされ、適正な価格で提供されるそうした製品は、実際に日々使われることでその価値が証明され、多くのユーザーにより長期にわたって愛用していただけます。

 

モリソン氏はこの精神に基づき、深絞り加工を採用した、つなぎ目のないアルミニウム素材の筆記具シリーズ、ラミー アイオンを開発しました。このシリーズには派手さもなければ、リングや鮮やかなカラーバリエーションもありません。彼が作る筆記具は、力強く印象的な外観と、丈夫で、必要なときにさっと手に取れる使いやすさを兼ね備えています。

 

つなぎ目のないデザインが特徴的なラミー アイオンシリーズ。

 

デザインに取り掛かるときはどのようにしていますか? まず手書きでスケッチするのですか?

 

ジャスパー・モリソン氏:手書きでたくさんのスケッチを描きます。たいてい万年筆を使います。

 

ご自身の筆跡は好きですか?

 

すらすら書けるときの筆跡は結構好きです。手紙や文章を書くことが多くないので、常に練習不足気味ですが、大抵は上手く書けます。

 

万年筆で書くことには、いえ、手で書くということ自体にかもしれませんが、正統派という雰囲気が漂います。そう感じさせるのは、筆記具の何だとお考えになりますか?

 

ペンの手触りや握り心地が良いことが貢献するのではないかと思います。それにインクの出が良く、紙の上で滑らかに走るものでなければなりませんね。

 

ペンは、それを使う人に合ったものでなければなりませんか?

 

ペンは、腕時計や洋服のようにパーソナルなアイテムです。持つ人の人間性を感じさせます。自分のペンが他人に使われるのを見たくはないですよね。デザインのプロセスに関していえば、ペンにはある程度の個性や、特色を持たせる必要があるということです。

 

ロンドンのジャスパー・モリソン氏のスタジオ。クレジット:Jasper Morrison Studio

 

この50年、ラミーは深澤直人氏、マリオ・ベリーニ氏、フランコ・クリヴィオ氏、リチャード・サッパー氏、ハンネス・ヴェットシュタイン氏といった、数多くの有名デザイナーとコラボレーションしてきました。この輝かしい顔ぶれに続く1人として名を連ねられることについて、魅力を感じましたか?

 

これほど偉大なデザイナーの方々に仲間入りできることは、とても幸運だと思います!

 

ラミー製品のなかでお気に入りのものはありますか?

 

長年ラミーのファンだったこともあり(初めてラミーを手にしたのは14の時でした)、初期のデザインには思い出があります。一番お気に入りだったのは、透明な万年筆です。たしかスクリュー式吸入機構の部分が透き通ったオレンジ色で、その他の内部パーツはグレーだったと思います。技術の粋を極めた外観は美しく、当時私が思い描いていたペンのあるべき姿に最も近いものでした。

 

 

ショールーム兼コンセプトストアとしても使われる、ホクストンにあるモリソン氏のデザインスタジオ。クレジット:Jasper Morrison Ltd./Nicola Tree

 

さまざまな企業と仕事をされていますが、ラミーとの仕事で最も印象に残っているのはどんなことですか?

 

技術的な専門知識のレベルの高さと、デザイン開発の締め切りが厳しくなかったことは予想外でした。

駆け出しの頃、工業プロセスの見直しに携わっていたそうですが、ラミー アイオンに深絞り加工を採用し、つなぎ目のないアルミニウム素材で作るというアイデアは、どのように思いついたのですか?

 

最初から、できるだけつなぎ目のない、密封されたペンをデザインしたいと考えていました。ラミー社が、私たちのアイデアを最高の形で実現してくれました。

 

このシリーズには、ブラックとオリーブシルバーの2つのバリエーションがありますが、なぜこの2色にしたのですか?

 

ラミーのデザイン言語にぴったり合うからです。表面に放射状にブラッシュ加工を施すことで、サテンのようにエレガントな雰囲気に仕上げています。

 

ジャスパー・モリソン氏にとって、良いデザインとは極限までシンプルで、極限まで機能的なもの。クレジット:Alexander Sander

ラミー アイオン シリーズで、個人的に気に入っているバリエーションはありますか?

 

両方とも気に入っています。現在使っているのは、オリーブシルバーのモデルです。

 

シンプルでほとんどタイムレスなものを、いつもどうやって作っているのですか?

 

それが、良いデザインを作るために私ができる唯一の方法なのです。全てが簡略化されていなければ、完全なデザインとはいえません。

 

数年前、日本人デザイナーの深澤直人氏と「スーパーノーマル」というタイトルで機能志向のデザインを構築されましたが、その観点はラミーの筆記具シリーズのデザインにも取り入れられていますか?

 

はい。全てのデザインが「スーパーノーマル」という目標の影響をある程度受けています。ただし、しばらくの間使ってみないと、本当に「スーパーノーマル」かどうかは分かりません。

 

モリソン氏の目から見て、万年筆といえばやはりツールですか?

 

ツールではありますが、同時にもっとパーソナルなものでもあります。19年くらい万年筆を使っていませんでしたが、再び使い始めてみて、ものを書くというプロセスの満足度をいかに上げてくれるかが分かりました。

 

インタビュアー:トーマス・ワグナー 

 

ありふれたものを再発見

「シンキングツール(thinking tools)」展では、ラミーのデザインプロセスについて詳しい展示が行われています。また、表現するための媒体や手段としての筆記具の役割にも光を当てています。この展示は、クリストフ・ニーマン氏のサポートにより実現しました。

 

橙赤色のライトが注がれた部屋の中央。リーウェイは意識を集中して、線細工のような構造物に接近し、スマートフォンに手を伸ばします。「全てラミーで出来ている! まるで巨大な火炎サンゴだ」。彼は、このモチーフをカメラに収めるのに完璧なアングルを探して身をかがめます。リーウェイは香港出身のデザインを学ぶ学生で、「シンキングツール(thinking tools)」の巡回展を見に来ています。サンゴというのは、アーティスト、クリストフ・ニーマン氏のデザインを使用して作った彫刻のことです。この作品のためだけに特別色で製造された、約2,500本の万年筆で構成されています。

 

高さが約2メートルあり、枝が生い茂っているような形状のインスタレーションが人々にイメージさせるのは、深海の巨大なサンゴだけではありません。神経回路網、つまり神経細胞とシナプスの多層的な相互作用を思い起こす人も多いでしょう。インスタレーションの下部では、枝状の構造が次第に細まって1本の万年筆にまとまり、そのペン先が紙の上に1本の直線を描いています。

 

「この作品は、クリエイティブなプロセスの複雑さを表現しています」と、クリストフ・ニーマン氏は言います。彼のイラストは、ニューヨーカー、ニューヨーク・タイムズ、ワイアードといった名だたる雑誌のトップページを定期的に飾っています。彼がラミーのために制作したイラストとインスタレーションは、この展覧会だけでしか見ることができません。「決して一直線ではありませんし、ほとんどの場合、方向転換があります。アイデアの多くは行き詰まり、最初からやり直さなければなりません。最終的に本当に良いアイデアが生まれるまで、それは続きます」ニーマン氏はこう語ります。

 

動画

https://youtu.be/JxJ9-tulpFw

この点で、アートは筆記具のデザインと非常によく似ているといえます。製品デザインも、複雑なプロセスの結果として生まれるものです。機能性と美しさを両立させることを目指す場合は、特にそうです。しかし「良い」製品デザインとは、何が他と異なり、どのように生まれるのでしょうか?

 

「シンキングツール」展では、ラミーデザインの始まりといえる1966年のラミー 2000から、ベストセラーのラミー サファリやラミー ノトまでのアイコンとなっている筆記具をベースとして、その答えを導き出そうとしています。完成品ではなく、それを作るまでのプロセスにも焦点を当てています。ラミーのアーカイブに残された多数のスケッチ、モデル、プロトタイプを展示し、構想からデザイン、製品化、販売に至る全ての段階を公開しています。

 

クリストフ・ニーマン氏の作品は展覧会にユーモラスな面を添えながら考察するための材料を提供し、さらに、展覧会のタイトルに込められたもうひとつの意味を暗示してもいます。「シンキングツール」、つまり筆記具の、考えを記したりまとめたりするのに役立つツールとしての役割に焦点を当てているのです。

 

動画

https://youtu.be/RvHNcGNN_ic

「シンキングツール(thinking tools)、プロセスとしてのデザイン―筆記具の誕生」

2018年3月3日~4月8日

21_21デザインサイト、東京(日本)

 

 

展示コンセプト、デザイン、美術:メレー・ウント・メレー

クリエイティブディレクション:マイク・メレー

キュレーター(ラミーのデザインプロセス):クラウス・クレンプ教授

美術協力:クリストフ・ニーマン

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