LAMY cp1 過去から未来へ 不変の機能美を放ち続けるロングセラー

投稿者 :DKSHKS on

ラミーのペンには、時間がどんなに過ぎてもまったく古くならない魅力がある。特別なデザインの魔法がかかっている。その中でも強力な魔力を秘め続けているのがラミー cp1(シーピーワン/以後、cp1)だ。1974年に登場し、2024年でちょうど50周年を迎えた。cp1は1970年代に完成したデザインなのだけれど、この時代を反映したクラシックな佇まいをしているわけではない。今の時代にも通用する不変の機能美を放っている。

 

ラミーの哲学は

時間を超えたデザイン

2024年10月、cp1のペンシルに新しい0.5mmモデルが登場した。ニュースの表現としては「従来の0.7mmに0.5mmの限定モデルが加わった」となるのだが、20年以上ラミーファンを続けている自分にとって、今回のモデルは画期的であり、とても大きなニュースなのだ。

ラミーの創業は1930年。現在の簡素かつ機能美に満ちたデザイン哲学をブランドに取り入れたのは1960年代に創業者を後継した2代目マンフレッド・ラミー氏(1936-2021)だ。世界中のペン愛好家からは、ドクター・ラミーと呼ばれ慕われていた。自分は2006年に来日した時に雑誌のインタビューをさせていただいた。その時に印象に残ったラミーの哲学を表現したコメントがある。「時間を超えたものを作る」「流行は追わない」。そして「美しいデザインを見つけることは自分探しの旅である」と。ペンのデザインを語る時の目の輝きと優しい笑顔が印象に残っている。



ドクター・ラミーは青年時代からシンプルで機能的なデザインを持つ工業製品に興味を抱いていた。特にドイツの小型電気器具メーカーであるブラウンが手がけるシェーバーやラジオなどのデザインに傾倒していた。もしブラウンがペンをデザインしたらどんな形になるのだろうか。1962年にラミーに入社した時は、真っ先にこんな夢想をしていた。そして1963年、ドクター・ラミーは元ブラウンのデザイナー、ゲルト・アルフレッド・ミュラー氏(写真左)と出会い、新生ラミーのデザインを依頼。そして1966年に完成したのが不朽のロングセラー「ラミー 2000」だ。cp1は、ミュラー氏が2000の次にデザインした。発売を開始したのは1974年で、2000とcp1はラミー史の中で飛び抜けたロングセラーモデルとなっている。

2000のふっくらとしたフォルムとは違い、cp1は簡潔な直線。でもそれぞれの後端部を並べてみると、クリップやノックボタンの形にミュラーデザイン共通のエレメントが潜んでいることがよくわかる。ラミーの新しいデザインが走り始めた1960年代の確信的かつ絶対的な簡素さがこのパーツに表れている。

 

cp1のフォルムから五感に伝わってくる機能美

ラミーには多くのモデルがあるが、それらをデザインと機能という2つの軸で分類すると大きく3つのグループに分類できる。極私的な分類となるが、まずは「色」。このグループを仮にAグループとする。自分は勝手に「ファビアン系」と呼んでいる。数多くのラミーのペンを手がけているウルフギャング・ファビアンが生み出した、サファリ、アルスター、ルクスなどがこのグループだ。毎年、魅力的な限定色が登場し、デザインにおける色の価値を存分に感じることができる。

次は「機能」。仮にBグループとする。ペンにおける斬新な機能をテクノロジーで体現したモデル。このグループは「クリヴィオ系」。一瞬で軸が伸縮するピコやキャップレス万年筆のダイアログCCなどを手がけたフランコ・クリヴィオのモデルたちは、form follows function(形は機能に従う)というラミー哲学を濃厚に秘めている。

最後のグループが「形」。仮にCグループとする。ここが「ミュラー系」だ。ラミーのデザインは装飾を一切省き、機能に徹している。cp1のデザインはその象徴ともいえる。色の違いは一見してすぐにわかる。機能は便利さや理屈を言葉で簡単に伝えることができる。しかし、このCグループに属する形の魅力をユーザーが感じ取るためにはかなりの時間を必要とする。自分の道具として手に入れ、さらに実際に時間をかけて使い込んで、形が作る機能(持ちやすい、書きやすい)を五感から感じ続けることで、初めてデザインの良さを理解できる。このCグループからは新しいモデルがなかなか登場しないため、今回のような限定モデルの発売はとても画期的なのだ。

 

シンプルな美しさが際立つ

直線の美

cp1のモデル名の由来はcylindrical pen(円筒形のペン)。約110mmの真鍮製の一直線の筒が軸となっており、その直径は約8mm。一切の無駄がないシンプルな美しさが際立つ。軸の後端にはステンレス削り出しのクリップが付いている。全身がほぼ金属製なので細身ながら重さは約20gあり、重心のポイントは軸の中央から若干の前寄りに配置されている。実際に握ってみると、自然な持ち重りを指で感じつつ、ペンの自重も用いることでスムーズな書き心地を生み出している。

究極のシンプルな佇まいは机上や日常生活の中で自然に溶け込む。そして使い始めるとすぐ手になじみ、その上質な書き心地を指が覚えると、細身のフォルムが寡黙に書くことを誘惑してくる。机上にあって無意識に握りたくなるこの形にcp1のデザインの魔力が潜んでいる。

 

ペンシルの0.5mmは約30年ぶりの復活

今回の限定モデルで最も注目したいのが新しい芯径である0.5mmだ。日本の筆記文化では、かなと漢字が混じっており、ノートの罫線もかなり細い行間の罫が多用されるため、日本市場のシャープペンシルは圧倒的に0.5mmが主流となっている。

1980年代のラミーのカタログにはcp1ペンシルの0.5mmが掲載してある。このモデルは1990年代半ばに廃盤となり、2011年にペンシルが再び登場するのだが、これが現在の0.7mm。cp1の0.5mmペンシルは約30年ぶりの復活なのだ。

現行のマットブラックに新しい2色が加わる

今回のcp1限定モデルは3色をラインアップしている。従来と同じ「マットブラック」は、艶のないブラック軸にシルバーのクリップを組み合わせている。ブラック×シルバーはラミーの原点ともいえる配色だ。マットな軸が放つ鈍い光は高級感にあふれている。

「ディープブルー」は2019年にバウハウス100周年を記念して登場したラミー2000リミテッドエディションが取り入れた大人気のブルーの軸色を踏襲。深みのある青は、マットな加工と相まって独特の存在感を放つ。

「ホワイト」は表面を光沢に仕上げている。1980年代のラミーのカタログを見るとcp1の定番モデルとしてホワイト軸が掲載してある。この当時のホワイトに組み合わせているクリップはブラック仕様だった。明快なコントラストが特徴だったが、今回のホワイトは他のモデルと同じシルバーのクリップを採用。柔らかいコントラストで大人かわいいホワイトモデルとなっている。


現在、中学生や高校生を中心に高い機能を持つシャープペンシルが注目されている。デジタルの反動であり、アナログ回帰のトレンドは今後より拡大していくだろう。もし17歳の高校生が最新のcp1を手に入れて使い続け、50年が過ぎたとしても、cp1のフォルムが古臭くなることはない。持ち主が還暦を過ぎてもcp1は静かに筆記具としてのパワーを放ち続ける。こんなに夢のある、持続可能な道具がほかにあるだろうか。

文・写真/清水茂樹
(編集者・文具ディレクター)

プロフィール
1965年生まれ。雑誌編集者。2004年に日本で唯一の文房具の季刊雑誌「趣味の文具箱」を創刊。2006年にドクター・ラミーにインタビュー。2018年にドイツ・ハイデルベルクのラミー本社・工場を取材し、1冊まるごとラミー製品の魅力を詰め込んだ雑誌「LAMY PERFECT BOOK」を発刊。

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